馬頭町（現・那珂川町）にある手作り味噌「はるこま屋」の店主、五月女清以智さんは、20年ほど前まで、東京でフリーライターをしていた。記事のテーマは主に食品関係で、当時はまだ世の中の関心が高いとはいえなかった「食の安全性」を問い、自然食品や有機農法の重要性を訴え続けていた。

そんな五月女さんが家業であった馬頭町の味噌工場を継ぐ決心を固めたのにはきっかけがある。

「ある時、実家で作った味噌を周りの人たちにふるまったらすごく喜ばれたんです。それまでは、自分のテーマだった「食」と家業の味噌が頭の中で結びついていなかった。僕が記事を通して伝えたかったことは、もしかすると『味噌』を通してもっと広く、深く伝えられるのではないかと思ったんです」

五月女さんが作る味噌は、完全無農薬の大豆を用いた手作り味噌だ。全国の無農薬農家と契約し、6種類の大豆を取り寄せて様々な味の種類を作り上げている。当然のことながら「遺伝子組み換え大豆」は一切使用していない。

「大豆には、表面のへこんだ部分が黒い『黒目大豆』と、色のついていない『白目大豆』があって、遺伝子組み換えが行われるのは100％黒目大豆。黒目で味噌を作ると黒いカスが残る。本気で味噌作りをしている人はそんな大豆を使わないんです。味噌を作る僕らの間では常識ですよ。」

だが、五月女さんの言う「常識」は、一般の消費者の間ではまだ知られていない。だからこそ五月女さんは、「スーパーマーケットで売られているものだけを見て判断するのではなく、食品の生産から流通の過程をもっと理解した上で、良し悪しを判断できるようになってほしい」と訴えているのだ。

「農家が手間隙かけて作った大豆には、見た瞬間、触れた瞬間に伝わってくるものがある。そんな農家の方々の思いを加工業者である僕たちは真摯に受け止めて、本気で美味しいものをつくらなければと思っています。」-“街ネタ”“旬ネタ”ウォッチングより-
五月女清以智さんとの出会いは、手仕事専科のスタッフを通じて、ご紹介いただいたことが、きっかけとなります。歌川広重美術館のなかに店舗をかまえておられて、美術工芸品を扱われておいででした。また、そこでご馳走になった、いしがきかりーが、特に美味しく五月女さんの美術工芸品を見る目とモノを作る才能を知りました。
また、わたし自身は、食育指導士の資格を持っており、「食と健康」の大切さを訴えていましたが、彼が、長年自然食材にこだわりを持ち、「食の安全性」を問い、自然食品や有機農法の重要性を訴え続けていたといます。因縁を感じました。
「福島」から、放射能汚染の大変さを知りますが、食の問題はそれ以上のものです。今回、かれの作る天然醸造味噌といしがきかりーを取り扱えるのは、嬉しい限りです。ぜひ、郷土の豊かな自然の力をつかって、作られた商品をご堪能ください。(2014.01.13)